スマートフォン市場はここ数年、性能面での進化が限界に近づきつつあります。カメラ性能やチップ性能の向上は着実に進んでいるものの、ユーザー体験を大きく変えるような革新は減少傾向にあります。
そんな中で再び注目を集めているのが「折りたたみスマートフォン」です。Samsung、Google、Huaweiなどのメーカーが次々にフォルダブル端末を投入し、Android陣営ではすでに複数世代にわたる改良が進んでいます。
一方、Appleはこれまで折りたたみ型iPhoneを発表していません。しかし、ここ数年で複数の特許出願や試作情報が報じられており、業界では「iPhone Fold」「iPhone Flip」などと呼ばれる次世代モデルへの期待が高まっています。
Appleがいつ、どのような形で参入するのか。その兆しを、現時点で判明している情報から読み解いていきます。
Apple Plans Thinner, Foldable iPhones to Revive Growth
https://www.wsj.com/tech/apple-thin-iphone-foldable-computer-plans-dbb4286c
折りたたみiPhoneの発表日・発売予想日
未だ多くの謎に包まれている折りたたみiPhoneですが、実際の発売はいつ頃になるのでしょうか。
金融投資会社JPモルガンが発行した投資家向けの市場調査ノートや、米Bloombergの著名リーカーであるマーク・ガーマン氏の予想によると、「2026年9月に発売されるだろう」との見方が一致しています。
ただし、初期の出荷台数はかなり限られるとの予測もあり、販売が始まっても入手困難になる可能性が高そうです。
これまでiPhoneシリーズは毎年秋に新型モデルが発表されるのが恒例ですが、2026年からは販売スタイル自体が変わるというウワサも浮上しています。
今後は、Proモデルや、2026年に初登場が予想されるAirモデル、そして折りたたみiPhoneといった上位モデルが、秋に集中して発表されるようになるとも言われています。
代り映えのない新製品では買い替えを促せず
すでに多くの競合スマートフォンメーカーが折りたたみデバイスを製造・販売していることから、今回のアップルの刷新は業界全体で見れば大きな飛躍とは言えません。
しかし、アップル自身にとっては大きな転換点となる可能性が高いです。
近年、同社の主力製品は半導体やカメラの性能向上、たとえば、背面カメラが2つ、3つになるといった製品のインターフェイスにおいては限定的なアップデートにとどまっており、その結果、ユーザーが従来のようなペースで買い替えを行う動機づけにはつながっていません。
そもそも折りたたみスマホ市場は、規模がまだ小さいと指摘されています。米調査会社IDCによると、2024年7〜9月期における世界出荷台数は前年同期比で7.4%減少しています。
最近では、中国メーカーが生成AI(人工知能)スマホの開発に注力し、投資の方向をシフトしていることもあり、折りたたみ市場の成長ペースは鈍化しているのが実情です。
(出典:Worldwide Smartphone Market Forecast to Grow 6.2% in 2024, Fueled by Robust Growth for Android in Emerging Markets and China, According to IDC — IDC公式リリース)
IDCは、耐久性に関する懸念や独自のユースケースに乏しい点が成長を抑制していると分析しています。
先行しているメーカーが多く、エポックメイキングな製品投入とは言えない可能性が高いですが、iPhoneがどんどん大きくなっていることも考えると小さいiPhoneのニーズは一定あるのではないでしょうか。
さらに、台湾の調査会社・集邦科技(トレンドフォース)の報告によれば、折りたたみスマホは依然としてニッチなカテゴリにとどまっており、2024年における世界スマホ市場でのシェアはわずか1.5%に過ぎません。しかしながら、欧米各国と比して、アジア人種は比較的小さく、手も小さいことから、アジアにおけるニーズは一定あるのかもしれません。
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折りたたみスマホの現在地:進化と課題
まず、折りたたみスマホというカテゴリ自体がどのような状況にあるかを整理しておきましょう。
Samsungの「Galaxy Z Fold」や「Z Flip」シリーズは市場の先頭を走り、Googleも「Pixel Fold」で参入しました。これらのデバイスは、「スマホの携帯性」と「タブレットの画面の広さ」を両立させるという新しいコンセプトを提示しています。
しかし、課題も少なくありません。代表的なのが「折り目」と「耐久性」の問題です。画面中央に残るシワや、長期間使用によるヒンジの摩耗など、構造上の弱点がまだ完全には解消されていません。また、折りたたみ構造によって厚みと重量が増し、ポケットへの収まりや取り回しが悪くなる傾向もあります。
加えて、折りたたみディスプレイのコストは通常のOLEDよりも高く、販売価格が20万円を超えることもしばしばです。こうした課題を克服し、Appleらしい完成度に仕上げることが、折りたたみiPhone実現への最大のハードルといえるでしょう。
iPhone Foldに関する最新の噂とリーク情報
Appleの折りたたみiPhoneに関しては、ここ1〜2年で具体的なリークが増えてきました。BloombergのMark Gurman氏をはじめ複数の著名アナリストが、「2026年後半から2027年初頭にかけて登場する可能性が高い」と報じています。Appleは従来、成熟した技術を自社流に磨き上げてから市場に投入する傾向があるため、他社が数世代先行した今こそ、Appleが動き出すタイミングと見る向きもあります。
デザイン面では「本のように開くブック型」が最有力です。閉じた状態では通常のiPhoneよりやや細身で、開くと7〜8インチ前後の広いディスプレイが現れる構造になるとみられています。これは、折りたたみ時にポケットサイズを保ちつつ、展開すればiPad miniクラスの画面として使える理想的な形です。
一方で、「縦に折るクラムシェル型(いわゆるiPhone Flip)」のプロトタイプも並行して開発されていると噂されており、Apple内部では複数の形状を比較検証している段階にあると考えられます。
ディスプレイとヒンジの革新:Appleらしい“見えない技術”
Appleが折りたたみiPhoneで最も重視しているのは、「折り目の見えなさ」と「ヒンジの耐久性」だと言われています。
折りたたみスマホの最大の弱点である中央のシワを解消するために、Appleは独自のヒンジ構造を研究しています。
折り曲げ部分の裏側に特殊なポリマー層を配置して、屈曲時に力を分散させる特許も出願済みです。これにより、展開時には画面がほぼフラットに見える構造が実現する可能性があります。
また、ディスプレイはSamsung Displayが供給を担うとされ、量産に向けた準備が進行中です。耐久テストの基準も従来より厳しく、数十万回の開閉に耐えるレベルが目標とされています。
筐体素材については、最新のiPhone 15 Proでも採用されたチタンフレームが有力視されています。軽量でありながら強度が高く、繰り返し開閉に耐えうる金属として最適です。Appleはさらに、内部構造に液体金属「LiquidMetal」やアルミ合金を組み合わせるハイブリッド構造も検討していると報じられています。
ハイブリッドフレームはアルミニウムとチタンを混ぜ合わせたことで軽量化、強度を高めることに成功しています。
カメラ、性能、そして価格
カメラ性能については、少なくとも4800万画素クラスのデュアルカメラを搭載し、広角と望遠の両方に対応する可能性が高いとされています。折りたたみ構造上、内部・外部どちらの画面でも撮影ができるため、セルフィーやビデオ通話時の柔軟性が高まるでしょう。
搭載チップは、折りたたみiPhoneが登場する時期を考えると「A19 Pro」もしくはそれ以降の世代になる見込みです。バッテリー容量は5,000mAh以上と予想されており、ディスプレイが2枚ある構造を支えるため、電力効率を最大限高めた制御システムが採用されると見られます。
価格帯はさまざまな予測がありますが、2,000〜2,500ドル(日本円でおよそ30〜35万円前後)が有力です。Appleは他社に比べてマージンを確保しながらも、初期ロットでの歩留まりを考慮して価格を抑える可能性があります。日本国内価格では26万円台という予想も一部で報じられています。
「iPhone Fold」がもたらす体験の変化
もし折りたたみiPhoneが実際に登場すれば、それは単なる形状の変化ではなく、ユーザー体験そのものを塗り替える可能性を秘めています。
まず想定されるのは、「iPhoneとiPadの融合」です。開いた状態で動画編集や資料閲覧を行い、折りたたんで持ち運ぶ。これまで別々のデバイスで行っていた作業を一台で完結できるようになります。
さらに、Appleはハードウェアとソフトウェアを密接に統合する企業として知られており、折りたたみ時のアプリ配置やUIの変化、マルチウィンドウ対応など、使い勝手の面で他社よりも一歩先を行く設計が期待されています。
「部分折り状態での操作」や「角度による自動レイアウト切り替え」など、MacBookやiPadで培ったノウハウが応用される可能性もあります。
技術的ハードルと競合との比較
とはいえ、Appleが折りたたみスマホ市場で成功するには、多くの課題を解決しなければなりません。
折りたたみ構造による重量増加、ヒンジの劣化、発熱、ソフトウェア最適化の難しさなど、いずれも設計段階からの解決が求められます。特に、Appleが誇る“完成度の高さ”を保ちながらこれらを両立させることは容易ではありません。
競合メーカーはすでに数年分のアドバンテージを持っています。Samsungは折りたたみの耐久試験を100万回レベルで行い、GoogleはカメラとAIを組み合わせた折りたたみ体験を強化しています。
その中でAppleが後発として優位性を築くためには、ハードの精度だけでなく、**「ソフトウェアでの体験の美しさ」**というAppleらしい強みを前面に出す必要があります。
また、折りたたみiPhoneが登場すれば、アクセサリ市場やアプリ開発市場にも大きな変化が生まれるでしょう。ケースメーカー、画面保護フィルム、スタンドやヒンジ関連アクセサリなど、新たな需要が生まれることは確実です。
今後の展望:Appleが目指す「ポスト・スマートフォン時代」
折りたたみiPhoneが意味するものは、単なる「iPhoneの新形態」ではありません。
むしろ、それはスマートフォンとタブレットの境界を再定義する試みであり、Appleが次に進む“デバイス融合”の第一歩といえます。
長期的には、この技術がApple Vision Proのような空間コンピューティング製品やMacBookシリーズにも波及する可能性があります。折りたたみ構造を持つディスプレイ技術は、あらゆる製品のフォームファクターを変えるポテンシャルを持っているのです。
発売時期は2026年9月以降と、信頼性の高い情報筋の多くが「2026年後半〜2027年初頭」を指し示しています。もしその時期に登場すれば、iPhone誕生から約20年。Appleが再び“スマートフォンの常識”を塗り替える瞬間となるでしょう。
折りたたみiPhone(iPhone Fold)は、いま世界中のテックファンが最も注目する未発表製品のひとつです。
技術的ハードルは高いものの、Appleの設計思想とエコシステムの統合力を考えれば、登場した瞬間に市場を再定義するインパクトを持つ可能性があります。
それは、単なる“折りたためるiPhone”ではなく、「使い方そのものが変わるデバイス」になるはずです。
Appleが次に描く未来の形を、私たちは静かに待つことしかできませんが、その“折り目”の向こう側にある新しい体験は、確実に近づいています。